2008年10月3日金曜日

300キロで走る体


先日見たF1関係のテレビ番組で、面白い事を見た。ドライバーは走行中に特殊な体験をしている。走行中、まず音が聞こえなくなり、やがて、色彩がなくなり、そして、動きがスローモーションになるそうだ。そうなると、壁と車体との距離をミリ単位で調整ができるほどになるという。

極度の集中のために、脳が機能を絞っていく。動体視力に必要ないもの、まずは音感。次に色覚。おそらく、この際の、脳内血流量も音感、色覚を司る部位は著しく減少しているだろう。最後に残ったのが白黒映像と動き。交通事故に遭った人がよく言う、「スローモーションでゆっくりと体が飛んだ」も、極限状態で脳が機能を「動き」の解析に絞り込むということなのだろう。交通事故は、本人は望んでいないが、F1ドライバーは自らをその状態へ持って行く。それには、時速数百キロの助けが必要だが。その瞬間、ドライバーは間違いなく運転に没入している。もはや、腕はステアリングを握ってはいなく、足もアクセルを踏んでいない。自分自身が、時速300キロで走っているのだ。

人間は、チータのように走れず、鳥のようにも飛べない。その、弱いからだを補強するために、車を、飛行機を作った。それらはいわば、延長された体であり、自分自身だ。ただ、生身の肉体と脳は進化を共にしているが、付け加えられた体の機能には脳は対応していない。人間が適切に対応できる速度はせいぜい時速20キロ程度と聞いたことがある。人が走って出せる速度だ。

新しく手に入れた高速のからだ。その体に脳が対応できない限り交通事故がなくなることはないのかもしれない。

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