Apple watchは、かつて多くの人が描いていた「夢」の商品化である。腕時計ほど常時身につけられてきた道具はない。これまで発売されてきた多くの多機能腕時計を見れば、そこに多くの機能を盛り込むことが一つの夢だったことがわかる。中でも叶わぬ夢の機能としてたびたびSF作品や漫画などに描かれたのは通信機能とテレビであろう。そのうち、通信機能はApple watchが実現した。テレビ機能は未だ付いていない。ただこれは、テレビが動画媒体の唯一の代表からその座をネット動画へ明け渡したこともある。とは言え、YouTubeのような動画もまだApple watchでは再生できない。Apple watchはスマートウォッチという新たな領域を広げつつあるが、それと同時に、誰もが欲するような夢の道具とはなり得なかった事実も示している。その原因はスマートフォンに他ならない。腕時計型電話が実現するより前に可能だった携帯電話が、一足先にかつての夢の多くを叶える場となったからだ。今や“電話”機能はサブに回り、メインはネット通信や電子決済の端末である。電子決済はまさに拡大の真っ最中だが、その読み取り機のデザインは、駅の改札やコンビニのレジを見ればわかるように、携帯電話をかざすことを前提としている。Apple watchを電子決済に使用することもできるのだが、手首にはめているので膝を曲げて読み取り機へ近づけなければならず、かえって使いづらい。また、腕時計で時間を見る時は、肘をわずかに曲げて見れば済むが、スマートウォッチで画面操作をする際は、それをかなり上方まで上げる必要がある。手首と肘を同じ高さほどまで上げなければならず、ほとんど肩関節は90度前方へ屈曲させることになり、その姿勢をしてみればわかるが、決して楽ではない。
そういった理想と現実の差異は当然シミュレーション済みのはずで、だからこそ一時の流行りで廃れないような機能(心臓モニターなど)を市場がそれを求めるより前に持たせているのであろう。
腕時計は、それをつけることで、公共の時間と常に接続されることになる。腕時計が流行という言葉さえ追いつかないほどに浸透していることから分かるように、私たちは繋がっていたい欲求を持っている。Apple watchは腕に巻くことで携帯よりさらに持続的接続を実現させている。今後は、Apple watchやスマートウォッチが進化するというより、IoT(物とインターネットとの接続)の進歩によって、それらと常時接続する媒体として人々に浸透していくように思われる。やがて、出生と同時にその腕にスマートウォッチを巻かれる、そんな時代が来るのだろうか。
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