腕はどこから生えているかと聞けば、それは胴体だと答えるだろう。それが、一般的な体の構造の解釈だ。人形だって、ロボットだって、腕は必ず胴体から生えている。それらは人間の形を模しているのだから当然だ。自分の体も鏡で見れば、胴体から生えている。
けれども、体の内側から見てみると、これがちょっと違うように見えてくる。皮を剝いで筋肉にして見ただけではやっぱり胴体から生えている。これを骨だけにしてみると、とたんにそれがあやふやになる。遠目に見れば、やっぱり胴体から生えているけれども、近くで良く良く骨のつながりを追っていくと、肩の部分は、胴体と繋がっていない!浮いている。肩の背中側には肩甲骨という三角の板状の骨がついているけれど、これもやっぱり胴体とは接続していない。肩の前部分の棒状の鎖骨という骨たどると、これが、体の中心の首の付け根部分でやっと胴体と接続しているに過ぎないことが分かる。それも小さな間接面だ。
骨で見るなら、腕は肩で胴体と繋がっておらず、首の付け根で繋がっているということになる。
さらに、腕を動かすには、腕の筋肉がいるわけだが、筋肉だけでは腕はまだ動かない。筋肉に命令を送る神経がいる。この神経と筋肉の関係は、進化の始めの頃の形態を改変し続ける事で今に至っていると考えられるので、それは、本来の筋肉のあり方を見つけるヒントになりうる。それらの神経は皆、背骨の中を通っている脊髄から枝を伸ばしている。
さて、腕に命令を送る神経は、なんと首の高さの脊髄から出てきている。
さらに言うなら、腕に栄養を送る血管も、心臓から、一旦上へ上って首の付け根まで出てから腕に降りてゆく。
このように、脈管、神経で見ると、腕は肩から出ていると言うよりも、首から出ていると言ったほうが正しいように思えてくる。
腕は、胸びれから進化した。魚を見ると、胸びれは首の横から生えているように見える。そもそも魚には首が無く、両生類になってから首が出来た。そう考えてみると、そもそも腕は首に属していたものが、その真上に首が”しぼったように”出来たことで下に置いていかれてあたかも胴体に属するようになったとも言えないか。
こうやって、当たり前の概念に違う側面を見せてくれる解剖学は面白い。