2009年5月18日月曜日

太古の女性


3万5000年前の人物像。象牙で作られた小さな人形だ。この写真を見て、初めてじゃないと思った。それは、グラヴェット文化の有名な3等身くらいの豊満な女性像に似ているからだ。つまり、誇張された胸と腰、横幅の広い体幹表現などだ。しかし、時代はこちらが数千年古い。どちらも大昔なので、なんだかどうでもいいような気もしてくるが、グラヴェット文化を仮に現在とすると、この像が作られたのはエジプト時代くらい離れている。そう考えると、何千年も同じような表現を続けていて、のんびりした時の流れをふと思うが、現在の私たちを見返してみれば、西洋彫刻の流れは古代ギリシアまで遡るわけだから、同じようなものか。

さて、グラヴェットの像ともう一つ、大きな違いがあり、それは頭部の扱いだ。見て分かる通り、頭部が極度に小さい。横向きに穴があいており、頭部というより、ひもを通すための機能部に過ぎないかもしれない。
この一つの発見からは、断定的な回答が導き出されるはずもないが、この表現からは身体の重要性が見て取れる。現代の私たちは、顔以外の体は服で覆い隠し、その人の「生の」対外性はさらけ出している顔だけだ。私たちのコミュニケーションと身体性のアピールについて顔が負う重要度は増した結果、美女、美男子という概念が生まれた。漫画のキャラクター達はみな巨大な頭部と顔面を揺らしている。それと全く逆である。顔などどうでもいいと言わんばかりだ。この女性は、両手で胸を持ち上げているように見える。巨大な胸をさらに誇張しようとしている。骨盤も大きく左右に張り出して安産型だ。腹部の張りが肥満か妊娠か分からぬが、いずれにせよ安泰を感じさせる。外性器も表されているように見えるがよく分からない。細かい溝は服のしわか、入れ墨か、傷で作る模様(scarification)か。
これらの像と時代から、彼らは裸に近い格好で生活していたのだろう。そうであるなら、相手の健康状態を知る時、私たちのように小さな顔面だけから知らなければならない制約などない。相手の体全体を眺めて判断することになろう。そうなると、顔だけつくろっても意味が無く、体全体の健康性が大切になる。つまり、大きな胸、張った腰、安泰な大きなお腹だ(食が安定した現代では、お腹は細い方が好まれるが)。この感覚は、夏が近づくとトレーニングしたくなるのを思えばよく理解できる。

これを作っていた、太古の人物。とはいえ、すでに私たちと同じ、ホモ・サピエンスであり、脳容積も変わらない。だから、気が遠くなるほどの時が離れていようとも、小さな発見物から、とても身近な感覚を抱く事が出来る。壮大かつ愛らしい、すてきな彫刻だ。

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