2010年2月4日木曜日

元祖あひる口 オルメカ

若い女性の「あひる口」が流行ってしばらく経つ。と言っても、いつ、誰から、どういう経緯で流行りだしたのかは知らない。
あひる口とは、字の如くで、あひるのクチバシを正面から見たような「口角が上がって、上唇がわずかに突出して気持ち上を向いている」ものを指す。
これをかわいいと言うわけだが、それも当然である。なぜなら、この口の形は、乳幼児の唇の形と同じだからだ。私たちは赤ちゃんの事をかわいいと思う。それは、かわいいと思うように脳がなっているとも言い換えられる。本能的に保護したいと思ってしまう。その赤ちゃんは皆、あひる口をしている。これは、母親の乳首に吸い付くのに適した形なのだ。

そもそも、「くちびる」自体が乳を吸うために獲得された構造である。故に唇を持つ動物を「哺乳類」(乳を口にふくむ・乳で育てる類の意)と呼ぶ。乳を吸う必要のない動物たちは唇を持っておらず、皆、口裂けである。私たちは、乳に吸い付くための道具を二次利用して表情の足しにしたり、発声の役にも立てたりしている。ものを食べるにも唇で口を閉じなければ大変である。歯医者で麻酔をした後に水を含んだことがあれば分かるだろう。
このような進化上後付けの構造を証明するように、アゴを上下させる神経と唇を動かす神経は別系統である。

漫画が発展している日本で、大きな需要を抱えている領域が「美少女漫画」だ。そこに描かれる少女は、購買層による「かわいさ」の厳しい淘汰を経て生き残った者たちと言える。その顔を見ると、丸みがある大きな頭部に、巨大な眼、目立たない鼻(正確には鼻翼が張っていない)、小さな口。これらは紛れもなく、幼児のそれだ。
このように、男女を問わず「かわいい」要素を追い求めた結果に幼児性へとたどり着く事は興味深い。

幼児とあひる口。この要素を表現様式として採用していた文化が過去にもあった。日本の裏側メキシコにおいて、今から3000年前の古代文明オルメカである。オルメカは、古代アメリカ大陸における最初の巨大文明とされている。オルメカを初めとするメキシコ古代文明は石像文化であったため、さまざまな遺跡や発掘物が見つかっている。そのオルメカ文化を代表するような石彫表現にジャガー神というものがある。人間とジャガーのハーフであり信仰の対象だったが、それらの幾つかは幼児の姿で表されている。その口を見ると、典型的な乳幼児の口が表現されているのがわかる。あひる口である。開かれた口内にはまだ歯が生える前の歯茎が見えている。様式化しつつも写実的要素を残す印象深い造形のジャガー神は後に続くテオティワカンではより図式化されたトラロック神へと変貌し、後のアステカ文明の神々へも継承され、1521年にメキシコによって滅ぼされるまで生き続けた。

あひる口とそれを含む幼児性への欲求。本能的に引きつけられてしまうその容姿に、古代オルメカの人々は神を割り当てた。そして、現代の私たちはそのかわいらしさを自らの魅力を引き立てる手段として用いている。

ちなみに、南米の彼ら”インディオ”は氷河期の終わりにアジアから渡っていった人々である可能性があり、そうならば私たちと遠くない親戚とも言える。マヤの壁画に描かれる人物表現に時折日本と共通する何かを感じるのは私だけだろうか。

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