2008年10月13日月曜日

Artistic anatomy≠Anatomy for artists


美術解剖学という言葉、固有名詞がある。一般的にはほぼ無名であり、美術に関わっている人でも美大でも出ていなければ知らないか、せいぜい名前程度だろう。美術解剖学は、東京芸大に講座を構えている。学会もあり、芸大が拠点である。実質的な活動はほとんどされていないと聞く。知名度が低いのもわかろうというものだ。

では、いったいどんなものか。解剖と言うのだから、死体を切り開いているのか。それと美術となんの関係があるのか。実際には、解剖はしていない。解剖によって得られる人体等の知識を、美術に応用しようというものだ。いわば、ハウツーものである。なのに、「学」が最後に付く。なんとも、大げさだ。実際に人体内部について「学」をしたのは医学の解剖学ではないか。そう思ってしまう。医学における解剖学の知識は膨大で、そのなかで美術の制作に応用する価値があるのは骨や筋など一部に限られる。だから、どれを借用するのかを効率的に選考しなければならないし、医学ではあまり重要視されない筋のボリュームなども考える必要はあるだろうから、そこが「学」なのかもしれない。それでも、やはりしっくりこない。「学」を付けないと体裁が悪い。本音はそんなところにあったのかもしれない。

書店の美術関係の書棚へ行くと、技法書の中にいわゆる美術解剖関係のものがある。ほとんどが西洋書の訳書だ。題名を見るとそこには「美術解剖学」を意味する「Artistic anatomy」とは書かれていない。 「Anatomy for artists」といったように書かれている。「芸術家の為の解剖学」である。そもそも、Artistic anatomyという単語、ジャンルは西洋には無いと思う。この単語から連想されるのは、「美的な」「美術の」解剖学、というニュアンスであって、芸術家の制作のための参考としての解剖学、というニュアンスはむしろ弱い。そして、この言葉に引っ張られたのか、日本では「Anatomy for artists」の授業は行われていないようだ。

厳密に言えば、教える方も教わる方も、漠然と「Anatomy for artists」をしている”つもり”でいて、実際は「Artistic anatomy」をしているのである。「Artistic anatomy」が役立つのは、批評、評論家にとってであって、実際の制作者には必要がない。制作者が必要なのは「Anatomy for artists」の情報だ。

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