2015年2月23日月曜日

解剖学に見る人間味 脊髄神経番号へのアイデア

 解剖学は、自然物である人体を人間が理解できるように部位に分けてグループ化し名称を与えたものだ。だから、色々なところに人間の都合や癖のようなものが見え隠れして、ある意味、とても人間味溢れている。もっとも分かりやすいのは、解剖学名だろう。基本的には「分かりやすいように」という配慮のもとに命名されているのが分かるが、その基準が安定していない。例えば、「三角筋」や「方形筋」のように、見た目がそのまま名前になっているものがあると思えば、「胸鎖乳突筋」のように筋の着く場所を名前にしているものがあったりする。胸鎖乳突筋などは、骨の名前を知っていれば直ぐに分かるが、知らなければ何のことか想像も出来ない名称だろう。ちなみにこれは、「胸骨と鎖骨から始まって、(側頭骨の)乳様突起まで行く筋」という意味である。解剖学を学ぶ時はまず初めに骨学から入るものだが、それには上記のような理由があるわけだ。他に、構造の形状を示す名称には、よく使われる言葉が決まっている。それらは「溝」や「孔」など、一般的にもイメージしやすい言葉が多い。ただ、興味深いのがポチっと出っ張ったものには「乳頭」という言葉が与えられ、より大きな突起部は「乳様」と呼ばれることだ。どちらも女性の乳房をイメージして命名されている。歴史に登場する解剖学者はほぼ全て男性と言って良い。それが影響しているのかどうかは分からないけれど。
 初めにも書いたように、解剖学は「人が勝手に決めた」ものだから、それに対する見直しや再発見は現在でも行われている。解剖学関係の論文では常に批判的視点から従来の記述に見直しが図られている。そういった中で概ね妥当だろうと判断されたものは、徐々に受け入れられ、やがて解剖学の成書に反映されるようになる。だから、解剖学の教科書に書かれている内容は「ほぼ信じて良いけれど、もしかしたら今は(今後は)見方が変わっているかも」というところである。
 また、解剖学的な分類や名称は、機能よりも構造を重視しているようだ。脳神経は12対あるが、それを機能で見れば違う分け方ができるのだが、とりあえず「頭蓋に開いた孔から出る神経」という程度で12対としたのだろう。それがそのまま継承されている。「分かりやすいから、それでいいんだよ」という”ゆるさ”が感じられるのである。

 神経で、背骨から出てくるものを脊髄神経という。それはひとつひとつの脊椎の間から左右に出てくる。それを上から数字が振って脊柱の部位毎にグループ分けされている。人間の脊椎の数は決まっていて、頸椎が7つ、胸椎が12、腰椎が5、仙骨1つに尾骨となる。ただ、仙骨は5個の椎骨のくっついたものである。さて、ここから出てくる脊髄神経の数だが、椎骨の間から出てくるのだから、椎骨の数と同じで良いと思いたいところだ。ところが実際は頚神経が8、胸神経が12、腰神経が5、仙骨神経が5、尾骨神経が1である。お気づきのように、頚神経だけが椎骨の数より1つ多い。頸椎の一番上には頭蓋が乗っかっている。この頭蓋と第1頸椎との間からも脊髄神経は出てくる。これを「1」とカウントして始まる。すると、肋骨が始まる第1胸椎の上の隙間までが「8」になるのである。それで、第1胸椎の下の隙間から「胸神経1」が始まるのだ。そのように教科書にはしらぁ〜と書かれるので、こちらも「ふんふん」とそのまま受け取ってしまう。けれども、これがちょっとくせ者なのだ。まず、頸部だけ椎骨の数と数が違うのがそもそもすっきりしない。それに、頚神経だけが頸椎の「上」と神経の数が同じになり、そのせいで第1胸椎の上が第8頚神経とややこしく、更に、胸神経以下では、椎骨の「下」と神経の数が同じになるという”直感的わかりにくさ”を生んでいる。大体この解説を読んでも全くピンと来ないだろう。それは、この頚神経を8つとしたことが原因なのだ。
 単純に一番上から、椎骨の分類と同じ数でグループ分けすればそれでよいのに、と思う。つまり、頸7、胸12、腰5、仙骨5、である。で、最後の尾骨神経を従来の1から2にすれば良い。仮にこうすると、胸神経以下のナンバリングが全て1繰り上がることになる。このほうがそこから出てくる神経の種類もよりスッキリするように思われる。例えば、上肢への神経は腕神経叢という神経の「絡まり」を作るが、それは頸5、6、7、8、胸1から始まる。(これ以下より頚をC、胸をT、腰をL、仙骨をSと表記)。このうちC8とT1が合わさって下神経幹を構成するが、繰り上げればよりシンプルに「下神経幹はT1、T2」となる。つまり尺骨神経は胸神経由来と言い切ってしまう(!)。これは脊髄神経の皮膚支配域を示すデルマトーム図を見ても、その方がすっきりと見える。
 ナンバリングを1つずらすことですっきりするのは、下肢の支配神経群である腰仙骨神経叢でも同様である。通常、腰神経叢はL1からL4までで構成されるが、細い線維が1つ上のT12からもやってきている。1つ繰り上げてT12をL1とすれば問題ない。腰神経叢から出る神経の支配域は下腹部から陰部の前面と大腿部前面である。そして、L5から始まる仙骨神経叢は臀部から下肢の後面と下腿部、そして陰部に及ぶ。つまり、大まかに言えば、腰神経叢が下半身の前面を、仙骨神経叢が下半身の後面を担っている。そして、その境界つまり2つの神経叢の境界がL4とL5の間という事になる。これも1つ繰り上げれば、腰神経叢はL1からL5、仙骨神経叢はS1からの始まりとなって、明解になる。要するに腰椎部から出る神経は前面、仙骨部からは後面と言い切れるのだ。両の神経叢を跨ぐ腰仙骨神経幹がL5になるわけで、これも現状のL4という”途中感”から抜け出られるではないか・・。

 とまあこんな風に、既存の記載内容にケチを付けつつ見るのも、たまには楽しいかもしれない。500年の知識の積層の上で遊んでみるわけである。

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